軍記物・説話集・他

  ☆軍記物☆

◆ 将 門 記
10世紀半ばに、女性には優しく義侠心にあふれた平将門があちこちの紛争に首をつっこみ、勢いあまって「新皇」になってしまった話。清和源氏の祖といわれる源経基が登場しますが、どう贔屓目にみてもなさけないオッサンですな。

 

◆ 純友追討記
将門と時を同じくして南海で反乱を起こした藤原純友の追討の記録。軍記物というよりは史料に分類した方が良いのでしょうが、便宜上こちらに入れておきます。

 

◆ 陸 奥 話 記
11世紀半ばの前九年の役をえがく。奥州の安倍氏の驕慢に対し、朝廷より陸奥守・鎮守府将軍として派遣された源頼義の奥州征伐記。乱の発端としては源頼義の言いがかりに近いものもあるんですけどね。官軍の敗戦濃厚の際に源義家のはなつ矢が神のごとくの命中率だったという逸話や、敵に寝返った藤原経清をとらえた源頼義は部下に命じ鈍刀でノコギリ引きしたという逸話などを載せています。かなり殺伐としてます。

 

◆ 奥州後三年記
11世紀後半の後三年の役をえがく。源義家が陸奥守在任中に奥州清原氏の内紛がおこり、最終的に義家は藤原清衡に加担した話。この中では、弟・源義光が兵衛尉の職務を放りだして兄・義家のもとにはしった話や、右目を射られた鎌倉権五郎景正の矢を抜いてやろうとして味方の三浦為次が景正の顔を踏んだら「弓矢に当たって死ぬなら本望だが顔を踏むならお前は敵だ」と景正が三浦為次を殺そうとしたエピソードなどが有名ですね。
義家軍に悪口雑言をはいた千任丸を捕らえ、くいしばる歯を突きやぶり舌を引きだして切り、木の枝にくくってその足の下に主人の首を置くなど、敵への報復は陸奥話記以上にリアルで殺伐としています。

 

◆ 保 元 物 語
1156年、崇徳上皇+藤原頼長+vs後白河上皇+藤原忠通の対立がおこり、それぞれに武士が駆りだされ源為義+平忠正vs源義朝+平清盛と源平合い分かれての対戦となり、その結果、後白河側が勝利。敗北側の源為朝が超人的なヒーローに描かれていますけれども、これも一種の判官びいきなんでしょうねえ。異本が若干あり、「金刀比羅本」では為朝のワイルド化が顕著。為朝が伊豆に流される際に「ゑいや」と騒ぎ輿をつぶして工藤茂光にもてあまされる話が(・∀・)イイ!!

 

◆ 平 治 物 語
1159年、おのれの待遇に不満をもつ源義朝と藤原信頼がクーデターをおこし、結局は後白河上皇に擁された平清盛に負けた話。源義平の活躍は保元物語の為朝とダブりますが、やはり義平の方が小粒。13歳の源頼朝はこれが初陣であり、この乱のあとに捕らえられ斬首のところを平清盛の義母に助命されて伊豆へ流罪になります。これも異本が若干あり、母の助命を泣いて訴える常盤(源義経の母)をけなげに諌めるのが「学習院本」「古活字本」では乙若、「金刀比羅本」では今若などという相違もあります。

 

◆ 平 家 物 語
主に12世紀後半をえがく。この『平家物語』には異本がたくさんあり、語り本系と読み本系に大別され、中でも一番有名なのが語り系の『覚一本』ですね。単に『平家物語』と言う場合は大抵この本をさします。平清盛の父・平忠盛の「殿上闇討」にはじまり、清盛の曾孫である「六代被斬」までの十二巻と、灌頂巻からなっています。主役が平清盛→源義仲→源義経と移り変わっていき、後半は源氏の物語でもあります。源頼政の鵺退治の話や、老武者・斉藤実盛が白髪を黒く染めて最期の戦いに臨んだ話、宇治川渡河の際の佐々木高綱と梶原景季の先陣争い、義経が部下の戦死に号泣した話などなど、「祇園精舎の鐘の声」の抹香くさい冒頭からはうかがい知れないエピソードが満載です。

『治承寿永物語』という原本があったようで、これは現存しておりません。平家諸本の中で一番原本に近いのではないかと言われているのが『延慶本』。覚一本ほど文章が洗練されていないですが、闘いの描写がリアルで面白いです。『長門本』も微妙にこれと似ています。
『源平盛衰記』は『延慶本』に加筆したものと思われます。海音寺潮五郎の『列伝』などでは盛衰記が「史実」扱いされており、吉川英治『新平家』などもこれが元ネタ。昭和初期の歴史学のようすがしのばれますね。
『源平闘諍録』は『延慶本』か『源平盛衰記』に千葉氏周辺で加筆されたものと思われます。

『屋代本』『八坂本』『南都本』『印本』など他にもまだまだありますが、まあとにかくこれらの異本を読み比べるだけでも楽しいです。

 

◆ 曽 我 物 語
12世紀半ばから話は始まり、1193年に源頼朝一行の鹿狩りに乗じ、曽我兄弟が頼朝の忠臣・工藤祐経に仇討ちを果たすまでの話。祖父の代からの経緯をたどると、どちらが悪いとは一概に言えないんですがねえ。この兄弟の仇討ちは頼朝暗殺をも狙った北条黒幕説というのもありますが、永井路子氏は岡崎・大庭黒幕説をとなえてます。でもどちらの説も無理がある気がします。また畠山重忠と和田義盛が曽我兄弟の陰謀を知って知らぬふりや応援をしてますが、それは北条に滅ぼされた彼らをこの物語で鎮魂しようとしたという説もあります。 、、、ってことはやっぱり北条が黒幕なのか??

 

◆ 承 久 記
1219年、三代目将軍・源実朝が甥の公暁に暗殺され、揺れる鎌倉幕府につけこもうとする後鳥羽上皇。その要求についに鎌倉武士がブチキレ、逆に京都に攻め込むという話。宇治川渡河譚などは平家物語の二番煎じの感もあり、描写としては苦しいところ。後半は後鳥羽上皇に裏切られた朝廷側の武士・山田重忠の無念がつたわってきます。
しかし将軍亡きあと北条氏と三浦氏のイニシアチブをめぐってのかけひきや、武家政治の契機となった大問題を扱っているのに、一般的には意外と影の薄い軍記物ですね。

 

◆ 増  鏡
大鏡・今鏡に続く『鏡』3部作完結編(?)。軍記物ではないですが、平家物語から承久記までの年代の、淫蕩な京都側のようすを描いた話。源氏物語をベースにした話が多く、話のリズムが和歌の挿入でとぎれ、ちょっと退屈。

 

◆ 義 経 記
源義経を主役に、室町時代に書かれたフィクション。平家物語を踏まえ、その義経の空白期間を埋めるべく書かれた妄想。ただ『義経記』というよりは、ほとんど架空の人物『弁慶記』なんですけどね。これを「史実」「史書」として扱っている小説家も多いです。んな、あほな。

 

◆ 太 平 記
南北朝動乱を描いた作品。国文学では平家物語とよく比較され駄作扱いをされていますが、テーマが違うものを比較してもしかたないと思うんですがねえ。余談ですが、足利方だったうちの近所の殿さまは太平洋戦争中は国賊とされ、村民は非国民扱いされたそうです。

 

 

  ☆説話集・他☆

◆ 今昔物語集
本朝世俗部は平安中期をえがいた説話集。軍記物好きとしては巻23以降が特におもしろく、巻25の武芸の部「源宛と平良文と合戦ふ語」「源頼信朝臣、平忠常を責むる語」「源頼義朝臣の男頼義、馬盗人を射殺したる語」などは必読でしょう。

 

◆ 古 事 談
源義経などと同世代の源顕兼が12世紀から13世紀初頭にかけて採取した説話集。一所懸命⇒一生懸命の語源となったエピソード、源義光が藤原顕季と所領争いをしたが白河院に「顕季はこの庄ひとつなくとも困るまい。義光はただ一所懸命(一所に命を懸ける)」と聞いた藤原顕季が義光にその所領を譲ったところ、意気に感じた義光はその後顕季の影のガードマンとなった話。源頼義が母の不義を憎み、馬の供養はしても母の供養はしなかった話。物の怪に悩まされた白河院が源義家の弓を枕辺に置いた話など、平安中期〜鎌倉初期の話が載ってます。

 

◆ 古今著聞集
橘成季の集めた昔話集。「和歌」に源頼朝の話題が2話。「管絃歌舞」に源義光が例の兵衛尉を放棄して陸奥にくだる際に、足柄関で秘伝の曲を豊原時秋に授けた話。「武勇」に源義家の颯爽とした男ぶりが3話。「弓箭」などには攝津渡辺党のエピソードが幾つか。その他にも、和田の乱で和田氏の味方につかなかった三浦氏に対し千葉氏が後日「三浦犬は友を食らふ」と皮肉を浴びせたこと、畠山重忠が怪力自慢の相撲取りを簡単にねじふせた話など、古事談と同様に平安中期〜鎌倉初期の話が載ってます。

 

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